ご近所のぜいたく空間”銭湯”「富士見湯」
西片の屋敷町から白山方面をつなぐ急勾配の新坂を降りると、右手に鬱蒼とした緑が広がっています。この崖の麓に「富士見湯」はあります。都心では珍しい自然の森は、薪を積むために先代が崖ごと買ったために残りました。
ふわりとした唐破風の上に、シンプルな千鳥破風をいだく玄関と、溢れんばかりの富士山の溶岩石。お客さんに極楽気分を味わってもらうための、別世界への入り口です。
富士見湯といえば激熱の湯温。良質の地下水を薪で焚いたお湯は熱すぎても柔らかく、気づけば癖になったという人も多いはず。湯上りには極上のリラックスタイムを運んでくれます。
白山通りの喧騒をよそに、お風呂屋さんの周りは静かな空気が満ちています。
まるでタイムスリップしたかのような感覚は、付近の町並みと町の人柄もあるのでしょう。通り沿いには印刷工場が立ち並び、不要になったパレットは銭湯の薪燃料として持ち込まれます。花街の面影を求めて路地に入れば、風情をたたえる料亭屋敷や石畳が大切に残され、人々が華やかな時代を誇らしく話してくれます。
昔々、富士見湯は「たぬき湯」という愛称で地元に親しまれていました。今でも番台の上にはひっそりとたぬきの置物が…。
午前2時までの営業は、忙しい現代人を癒してくれます。仕事帰りにひとっ風呂、なんていかがでしょうか。
文京建築会ユース
文・取材/三浦幸子
写真/栗生はるか
編集/織田ゆりか
※ この記事はタウン誌「空マガジン」第50号(2014年5月1日発行)に掲載されたものです。